CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

2023-05-01から1ヶ月間の記事一覧

Day 151st マーク

ダンスはセックス以上に性的だ。何故なら、とびきりの手段であるあの部分を決して使わないから。だからこそ、体を一層、美しく効果的に使おうと努力する。あの部分を使ってしまえば、事は容易く進んでしまうのに、そうではないから、筋肉はとても苦労する。…

Day 150th マンハッタン夜遊びの不便

私は、お酒が好きなのに、酔っ払いが大嫌い。小説に書いたりするくせに、ドラッグスが大嫌い、という困った性格である。どこを見ても、明らかにクラックやってるお兄ちゃんたちに囲まれて、孤独をかみしめる私であった。山田詠美「マンハッタン夜遊びの不便…

Day 149th ヴァセリンの記憶

彼の指が、あのとろりとしたヴァセリンの塊をすくったのです。それが、すべての始まりだったのです。あの黄色のクリームがえぐり取られた後、ぼくは、あまりの恍惚に気を失いかけました。具体的な事柄を覚えていたのは、そこまでです。その後は、まるで関節…

Day 148th ファーストクラッシュ

母は、他人から良い印象を持たれるべく常に気をつかっている人。でも、私は、自分自身にまず気をつかう。自分から見て満足する自分でありたいと常に願っているのです。はっきり言って、他人の目なんて知ったこっちゃない。だって、下々の者たちだもの。山田…

Day 147th 前夜祭

恋する回数が、人よりも、ずば抜けて多くて、さまざまな人たちと結びつく手管は、きちんと都会風に心得ていて、おまけに、それに決着をつけるのが、とてつもなく上手いために誰も憎むことは出来ない。それが私だった。そんな無責任な女が、ひとりの男を選び…

Day 146th 賢者の皮むき

ぼくが腑に落ちないのは、山野舞子のような女の子たちが、仕方なく美少女になってしまったの、とでも言いたげな様子をしていることなのだ。そうして、誰もが自分の味方に付いているのを疑いもせずに、振る舞っているいることなのだ。山田詠美「賢者の皮むき…

Day 145th モンブラン、ブルーブラック

優子は、目の前の光景に、すっかり混乱していた。出会ってから、ずっと、輝かしい指揮棒のように尊く思えた黒い万年筆が、五寸釘に見えた。薫子の体が、それを振り降ろすたびに、ゆらゆらと揺れる。山田詠美「モンブラン、ブルーブラック」『タイニーストー…

Day 144th NEWSPAPER

しばらくの間の完璧な静寂の後で、彼が私の体を離した時、私も、ゆっくりと目を開けた。性愛の後、すべての動物は悲しいという言葉があるそうだが、彼の表情にもの悲しさは欠片もなかった。むしろ、新しい飢えがやって来るのを予感して、それまでの孤独をど…

Day 143rd 懶惰の休暇編

いいかげん、黒人と結婚している→ドラッグの常用、いう偏見をどうにかしてもらいたいものだ。私は、何かの力を借りてドーパミンを出そうと考える姑息なアーティストを一切信用していないアンチ・ドラッグ人間である。この才能あふれる私にドラッグなんて必要…

Day 142nd それは腹わたの問題

待ち合わせた喫茶店から家に帰るまでの間、涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。哀しみでこぼすのとは違い、悔しさで流す涙は頬を伝わらない、と知った。見開いた目から、粒のまま転がり落ちるのだ。山田詠美「それは腹わたの問題」 『私のことだま漂流記』より 半…

Day 141st 文体同窓会

知らないの? あの文体を養っている作家もすごいでぶなのよ。名は体を表わす、あ、違った、文体は作家を表わすという言葉どおりなのよ。作家の美食もすぎると、ただ意地汚いだけなのに気付かないから、文体にもコレステロールがたまり続けてる訳よ。山田詠美…

Day 140th ファーストクラッシュ

私は、不憫な力を労わりたいのだ。唇で触れて、涙を流していたらぺろぺろと舐める。獣の毛づくろいみたいな感じ。その想像をするとくらくらする。興奮の極みで目眩によるくらくら。それを感じたいがために、力を不憫な状態に置きたいのだ。山田詠美「ファー…

Day 139th GIと遊んだ話(一)

煙草のけむりや人いきれで汚されていないクラブは、男と女を親しくさせない。もう何度か寝たことのある間柄なのが嘘のようだった。二人はブラインドデートで無理矢理来させられたティーンネイジャーのようにぎこちなく振舞っていた。山田詠美「GIと遊んだ話…

Day 138th NEWSPAPER

男と女の間に存在する嘘が、その恋に役立つことなどあるだろうか。賢い人は、相手を傷つけないためにつく嘘もあると言う。はたして本当にそうだろうか。私に関して言えば、嘘は破局をせき止める一時しのぎの堤防にしか過ぎない。つまり、やがてはその堤防は…

Day 137th アニマル・ロジック

「終わった後に吐くことすらあるわ。その時、ようやく思い出すの。ああ、私の体と心は一緒だわって。肉体的な不快感と自己嫌悪がひとつになって、私っていう人間を作っているんだって思うの。スティーヴに抱かれている時は、体と心が完全に分離してるの。と…

Day 136th ピンプオイル

私は、ボビーと一緒にいる時ですら、ボビーを思い出して、ぼんやりしてしまうのだ。いつもいつも、彼のして来たことを頭の中でなぞり上げ、少しばかりせつない思いに浸るのだ。山田詠美「ピンプオイル」『24・7(トウェンティフォー・セブン)』より 詠美の…

Day 135th 作家がお呼び

私は煙草は吸いますが、マリファナはやりません。もちろんドラッグスもやりません。なぜかというと必要ないからです。私はふつうにしていても充分、ハイの気持だからです。いつもボーッとしています。時々、編集者と会う時はボーッとしたふりをする事もあり…

Day 134th ガリレオの餌

つまり、男っていうのは、違う種類の女に弱いのだ。それまで自分の好みのタイプの女という枠組みを心の内に置いて安心して来た男は、それが壊された時に、どうしてよいのか解らなくなってしまうのだ。男は、いつも、傾向と対策を心の内で立てたがる。そして…

Day 133rd 電信柱さん

さくら草は、文字通り、めしべの芯に蜜を滲ませているようです。開いた花の数は四つになりました。美しい盛りです。でも、美しいだけじゃない。この子の話すことといったら、それはそれは、ユーモアに富んでいるのです。初めの内は、たどたどしさを残してい…

Day 132nd 姫君

わずか10CC。それっぽっちの量の快楽を放出するなんて非常に可愛らしいと思うのがこつかも、と感じるわたくしは、ちっとも美しくないけれども、男を楽しませる(プリーズ)作法には長けている。なんでもしてやらあ。と、同時に、何もして差し上げなくってよ…

Day 131st 恐怖のバリ島珍道中PartⅡ編

よその土地の人と恋愛したっていいじゃないか。恋の内容はいつだって、その人のパーソナルなものであり、ほんとのとこなんて他人には解りゃしないのである。私は「外国人の男とつき合って、ありゃどうせ遊ばれてんだよ」なんてしたり顔に言う奴らが大嫌いだ…

Day 130th ジェントルマン

二人は、同じ高校の連中が来ない珈琲店の片隅のスタンドで、長い時間、語り合った。放課後のすべてを分け合ったと言っても良い。感動した本や映画、夢中になっている音楽などについて。出会う以前の自分に関する事柄を報告するのにやっきになった。そして、…

Day 129th ウァッツ テイスティ?

きみの手の握り方ときたら、まったく複雑で、こんなふうに訴えているように思えた。私、言っとくけど、素敵なのは会話だけじゃないのよ。ベッドの中のことも、うんと上手。だけど、あなたとやる気はないけどね。そんなふうに、危ういところで、するりとぼく…

Day 128th シルエットを探せ

日本の俳優とかタレントって、素人目にも「着せられてるんだなあ」って分かる人、多いもんね。肌に馴染んでないというか、嘘臭い。それが原因かどうかは分からないけど、日本のテレビドラマとか映画とかって、ファッションとか着こなしに関しては、まったく…

Day 127th アニマルロジック

生理的に白人が嫌いだ。生理的に黒人が嫌いだ。そこに理由などない。でも、理由をつけたがるんだな、人間は。そういう時に人種という言葉は便利だ。しかし、それと憎むべき人種差別ってのは別物のように私は感じているのだが。どうも解らない。『アニマルロ…

Day 126th 駄洒落の功罪

人は何故、ごろ合わせで、連帯感をものにしようとするのだろうか。そして、その連帯から、離れようとしている人間にまで笑いを強要しようとするのであろうか。駄洒落の駄は不必要という意味を持つのではないだろうか。それなのに、ある種の人々は、それを必…

Day 125th ぼくは勉強ができない

幸福に育って来た者は、何故、不幸を気取りたがるのだろうか。不幸と比較しなくては、自分の幸福が確認できないなんて、本当は、見る目がないんじゃないのか。そう言えば、植草は、虚無がどうのこうの言ってたな。「ぼくは勉強ができない」『ぼくは勉強がで…

Day 124th 待ち伏せ

夜の仕事についている女に対して、彼らは一種の理想を持っているようなのだ。それは、そう見えない女が、意外なことに貞操観念を持っている、というものである。この意外なことに、というのがカギである。その意外性は自分に対してのみ外れるのが理想である…

Day 123rd「ピンプオイル」

濡れた心というのはいいものだ。いつでも涙ぐめる心を持っていると、女の瞳は美しくなる。「ピンプオイル」『24・7(トウェンティフォー・セブン)より 山田詠美はデビュー当時、実に多くの男女の恋物語を描いてきた。そのどれもが、当時としてはとても新鮮…

Day 122nd「ファーストクラッシュ」

他者の心の中で起こった感情の揺れが表情や仕草に浮き出るのを目撃するのって、その辺のドラマよりはるかに私をわくわくさせる。学校の友達が騒いでいるテレビ番組や漫画なんて目じゃない。山田詠美「ファーストクラッシュ」『ファーストクラッシュ』より 「…