CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 142nd それは腹わたの問題

 待ち合わせた喫茶店から家に帰るまでの間、涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。哀しみでこぼすのとは違い、悔しさで流す涙は頬を伝わらない、と知った。見開いた目から、粒のまま転がり落ちるのだ。
山田詠美「それは腹わたの問題」    
『私のことだま漂流記』より

半自伝的小説『私のことだま漂流記』はファンが読んでも楽しいのだが、ファンじゃない人でも一人の作家の半生を辿ることができる面白い小説だと思う。小説なので、フィクションも中には入っているとは思うが、自伝小説というだけあり、どの表現もリアリティがあり、その中に詠美さんらしい文章が入っていて、はっとする。
上記の文章もまさにそんなワンフレーズ。
悔し泣きと悲し泣きの違いをこんな風に表現できるのは山田詠美ぐらいしかいないのではないだろうか。
【DATA】
山田詠美「それは腹わたの問題」
講談社『私のことだま漂流記』
KEN'S NIGHT M5レフィル<彩色音楽集>
KEN'S NIGHT 2nd Bonus Track (They long to be) Close to You