CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 132nd 姫君

 わずか10CC。それっぽっちの量の快楽を放出するなんて非常に可愛らしいと思うのがこつかも、と感じるわたくしは、ちっとも美しくないけれども、男を楽しませる(プリーズ)作法には長けている。なんでもしてやらあ。と、同時に、何もして差し上げなくってよ。何でもおやりになって。と、同時に、何もさせねえよ。欲望は、満たされたりされなかったり、そう、禍福はあざなえる縄のごとし、それをまっとうした末の快楽こそ強烈なのであって、そこを通過しない10CCに高値は付かない。
「姫君」
『姫君』より

詠美の文章を読んでいると、時々、いや、しばしばセクシャルな表現が出てきて、ドギマギしてしまう。まぁ、もうこの歳になると、ドギマギも何もないのだが、でも、たとえばこの文章を若い思春期の子たちが読んだらどう思うだろうか?ということを考えてしまうのだ。
上記の文章だってそうだ。10㏄というのは、いわゆる男性が一回の射精で出す精液の量と言われているのだが(そんなに多くないという説もあるが)、それをこういう形でサラリと書いてしまうところが詠美らしいとぼくは思う。
そして、冒頭からこのテンションで「姫君」という作品は進むのだが、そのリズミカルな文章が実に楽しくて、まるでラップミュージックのような読後感をぼくたちに与えてくれるところがこの作品の魅力でもある。
【DATA】
山田詠美姫君
「姫君」文春文庫『姫君』
KEN'S NIGHT M5レフィル<彩酒摩天楼>
KEN'S NIGHT 1st Track 09 Moonlight Serenade