CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 288th イクメン父いろいろ

 イクメン。もう、はやってないから! それ、ただの父親の義務だから! 大変な思いをして子供の面倒を見ざるを得ない父親もいれば、ファッション感覚で的外れなアピールをしている奴もいる。色々です。そういや、イクメン志願のふりして、奥さんの妊娠中に他の女とちゃっかりラヴアフェア……なんて元国会銀もいましたっけ。
山田詠美イクメン父いろいろ」
『吉祥寺デイズ: うまうま食べもの・うしうしゴシップ』より

もうすっかり聞かなくなったイクメンという言葉。たまに思い出したかのようにこの言葉を使う人がいるけど、結局定着しなかった。
だいたい、こういう言葉を作っちゃう時点で、もうそれはナンセンスなんだということに気付くべき。(誰が言いだしたのかは知らんが)最近では、子どもファーストっていうわけのわからない言葉もできましたっけ?
なんか、詠美さんのエッセイを読んでいると、まだまだ日本人の意識って、遅れているよなぁと思うことが多い。だから、詠美さんのエッセイをあれこれと読んで、うなずいて、共感しちゃうんですけどね。
【DATA】
山田詠美イクメン父いろいろ」
小学館文庫『吉祥寺デイズ: うまうま食べもの・うしうしゴシップ』
KEN'S NIGHT M5レフィル<祝祭摩天楼>
KEN'S NIGHT 3rd 2nd Track 7 Stars Fell on Alabama ※ラメ入り

Day 287th きのこ愛ラプソディ

 ところで、私は大のきのこ好き。秋はもちろん年中毎日のように食べています。我が家のカレーの具は何が何でもきのこだけは外せません。
山田詠美「きのこ愛ラプソディ」
『吉祥寺デイズ: うまうま食べもの・うしうしゴシップ』より

詠美さんの家に遊びに行くと、必ず、美味しい料理を作って待っていてくれる。実は出版社も、詠美のレシピ本を作りたいと思っているらしいのだが、詠美自身は分量などは適当なので、レシピはないということで、その話はうやむやのままになっている。
ぼくは、酒飲みは料理が上手だと思っている。だって、お酒を美味しく飲むための料理(肴)を作るわけでしょ?そりゃ上手になるわなぁって。詠美のエッセイを読んでいると、お腹が空いてきてしかたない。
【DATA】
山田詠美「きのこ愛ラプソディ」
小学館文庫『吉祥寺デイズ: うまうま食べもの・うしうしゴシップ』
KEN'S NIGHT M5レフィル<祝祭摩天楼>
KEN'S NIGHT 3rd 2nd Track 7 Stars Fell on Alabama ※ラメ入り

Day 286th 写真週刊誌に愛憎こもごも

 人の死も不倫も汚職も災害も、何もかもが一枚の写真の許で一緒くた。でも、そこでは、希望や幸福や喜びも同列に並べられているのでした。ちなみに、私がデビューしたのも八五年。嬉しさも口惜しさも写真週刊誌が運んでくれました。写真は嘘をつかないけれども、そこに付けられた文章は嘘をつく。そんなことを学んで、あれこれ肝に銘じました。
山田詠美「写真週刊誌に愛憎こもごも」
『吉祥寺デイズ: うまうま食べもの・うしうしゴシップ』より

山田詠美がデビューした時、そのデビュー前後のことが写真週刊誌に取沙汰されて、ひと悶着あったのを覚えている人もいるかもしれない。
元SM嬢だったとか、ヌード写真集を出したとか、そういうことばかりが書かれて、まぁ、それは事実だったんだけど、そのことで、詠美は色眼鏡で見られるようになった。
今では考えられないことだが、結構、当時としてはそういう職業だったことがショッキングだったらしくて、その時の狂乱ぶりを実際にぼくはリアルタイムで見ていた。
ただ、ぼくはまだ高校生ぐらいだったので、あまりよくわからずに、なんか黒人とのセックスを描いた作家が出てきたんだって?ぐらいの認識しか持っていなかった。
でも、それを考えるとちょっとした印象でその人の評価って決定的なものになってしまうんだなぁ(作品も読みもしないで)って思った。
【DATA】
山田詠美「写真週刊誌に愛憎こもごも」
小学館文庫『吉祥寺デイズ: うまうま食べもの・うしうしゴシップ』
KEN'S NIGHT M5レフィル<祝祭摩天楼>
KEN'S NIGHT 3rd 2nd Track 7 Stars Fell on Alabama ※ラメ入り

Day 285th ジェントルマン

 母は束縛される人となった。彼女は、自分をついばんでは去って行く男たちとの過去に倦み疲れ、誰かのものとなるのを切望していたのだろう。がんじがらめにされて楽になりたかったのだ。そこには、もう、何も選択する迷いも必要もなく、ただ身を永遠にそこなわれない、と思い込んだことだ。流れる時間の中の些細な要因で、それは、あっと言う間に姿を変える場合もあるというのに。
山田詠美「ジェントルマン」
『ジェントルマン』より

ゲイを主人公としたピカレス小説「ジェントルマン」にも、様々な人間模様が描かれている。
そして、これは、主人公の夢生が母親のことを回想するシーン。
そして、なるほど!と納得してしまうのだ。
いろんな男と浮名を流す生活に疲れ、誰かひとりから束縛されることで、心の安定をはかるということは、とても理解できることでもある。
それは他人から見ると、真の愛情とは言えないかもしれないが、でも、本人がそのことで安定するのであれば、それもありなのかなと。
ぼくの周りにもそういう知らず知らずのうちに束縛を求めてしまう友だちがいるのだが、彼らの気持もなんとなくわかるなと、この文章を読んで思った。
【DATA】
山田詠美「ジェントルマン」
講談社文庫『ジェントルマン』
KEN'S NIGHT M5レフィル<美酒摩天楼>
KEN'S NIGHT 3rd Track 04 Lullaby of Birdland ※ラメ入り

Day 284th 自堕落ポンちゃん

 

 作家は先生と呼ばれる。私でさえ、時々、呼ばれる。でも、それは一体、何故なんだろう。人に物を教える人を先生というのだと思っていた。私の作品が人に物を教える人を先生というのだと思っていた。私の作品が人に物を教えているだろうか。私は人に物を教えようと思って小説を書いたことなど一度もない。ただ、物を知らせようと思っているだけである。私は道徳の先生なんかじゃない。ただ、自分の言葉をひとに知らせたいと思う目立ちたがり屋なのだ。
山田詠美「自堕落ポンちゃん
『AMY SAYS』より

昨日ご紹介した「道徳」に通じるエッセイをみつけた。
ぼくは詠美のサイン会などに遊びに行くとき、控室に遊び行くのだが、その時、いろんな人たちが詠美さんと接する様を見る。その時に、いつも周りの人たちが詠美さんのことをどう呼んでいるのか、に注目している。
親しい編集者はたいてい「山田さん」と呼んでいるし、さらに仲の良い編集者とかは「詠美」と呼びつけにしている編集者もいる。
でも、そうじゃない人たちはたいてい「山田先生」と呼んでいるのだ。詠美さんはそんなことでいちいち怒ったり、注意したりすることはないのだが、本人はあまり「先生」と呼ばれることを好んでいないのはぼくは知っている。
だから、詠美のことを「山田先生」と呼ぶ人は、あまり詠美のことを知らない人、あるいは、社交辞令(あるいは、出版界の決まりにしたがって)で詠美のことを「山田先生」って呼んでいるんだろうなと思う。
そこで、その人と詠美との親密度をぼくは勝手に計ってしまうのだ。イケズな妹を許して!(笑)
【DATA】
山田詠美「自堕落ポンちゃん
新潮文庫『AMY SAYS』
KEN'S NIGHT M5レフィル<流星摩天楼>
KEN'S NIGHT 1st Bonus Track The Rose ※ラメ入り

Day 283rd 道徳より公衆道徳

 御仕着せの道徳教育では、真の道徳心など育たない。だって、それは、ひとりひとりが親を始めとする大人たちを見て、自分の力で発見して行かなくては、自身に取り込めないものだから。
山田詠美「道徳より公衆道徳」
『4 Unique Girls :特別なあなたへの招待状』より

道徳教育というのは、今でも小中学校では行われているのだろうか?ぼくは良くわからないのだが、ぼくが小学校のときは道徳の時間というのはあったような気がする。
でも、内容なんて、すっかり忘れてしまったけどね。
詠美のこの発言は、まさにその通りで、つくづく育った環境というのはとても大切なんだなぁと思わされる。
幸いなことに、ぼくはごくごく普通の常識を持った(いろいろと個性的な部分はあるものの)両親に育てられ、比較的恵まれた環境で育っていることに感謝してい生きているのだが、果たしてもし、自分が親になったときに、それを継承できただろうか?と疑問に思ってしまうことがある。
ともあれ、今お子さんを持っている親の世代の人たちには、この道徳の感覚というのは、大切にして欲しいと思っている。
ただ、最近ではその「道徳」というのも微妙に変化しつつあるので、この道徳と個性をいかに上手に折り合いつけながら育てていくか、というのはとても難しい問題なのかなと思ったりもするが。
【DATA】
山田詠美「道徳より公衆道徳」
幻冬舎文庫『4 Unique Girls :特別なあなたへの招待状』
KEN'S NIGHT M5レフィル<夜景摩天楼>
KEN'S NIGHT 1st Track 12 Moon River

Day 282nd 司法修習生カビを語る

 

 カビ……黴と表記したいところですが、この漢字自体が嫌なルックスです。実は、秋が一番、カビが繁殖しやすい季節なのだとか。過ごしやすい季節というのは微生物にとっても同じなんでしょうか。食中毒も、本当は夏より秋口の方が多いらしいのです。
山田詠美司法修習生カビを語る」
『吉祥寺デイズ: うまうま食べもの・うしうしゴシップ』より

先月から今月にかけては、ずっと「熱帯安楽椅子」をご紹介していたので、少し息抜きを兼ねて、エッセイをとりあえげることにした。
詠美の時事関係のエッセイは、その季節に合った話題を取り上げることが多く、『女性セブン』で連載されていた、こちらのエッセイでも秋のこの時期にぴったりのエッセイが掲載されていた。
「黴」という文字そのものを「嫌なルックス」と表現するところが、作家らしい視点だと思うし、過ごしやすい季節は微生物にとっても過ごしやすいのか、という考察も詠美らしくて面白いと思う。
【DATA】
山田詠美司法修習生カビを語る」
小学館文庫『吉祥寺デイズ: うまうま食べもの・うしうしゴシップ』
KEN'S NIGHT M5レフィル<秋景摩天楼>
KEN'S NIGHT 1st Track 02 Autumn in New York