CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

小説『ハーレムワールド』

Day 201st ハーレムワールド

スタンはバラの花束とレコードを抱えて交差点に立っている。土曜日の夜。人混みの中。彼女はいつもこんな場所を指定してくる。もしも、彼がその姿を見逃したら、彼女はそのまま、自分を無視してどこかに行ってしまうのだ。そして、彼女は、決して彼がそんな…

Day 152nd ハーレムワールド

スタンは顔を傾けてサユリに口づけた。サユリは立ち止まり彼の首に腕をまわす。道で交わすにはあまりにも丁寧な口づけは、唾液の糸を甘やかに交錯させ、欲望という布地を織り上げる。山田詠美「ハーレムワールド」『ハーレムワールド』より いつも思うのだが…

Day 84th    「ハーレムワールド」

サユリの唇が離れて行く気配で目を開けると、ほんの数インチほどの位置で、彼女は微笑んでいた。その皮膚は生き生きと呼吸していてスタンの瞳を曇らせた。「ハーレムワールド」『ハーレムワールド』より 「ハーレムワールド」は、主人公であるサユリの様々な…

Day 20th「ハーレムワールド」

彼女の涙は熱帯の雨に似ているとティエンは思う。降り続く雨の中で彼は身動きもできない。ただ立ちすくんでいる。雨は激しい。それを受け止める彼の皮膚は痛みを覚える。雨粒は粉々に砕けて体じゅうをつたう。彼は、悲しいと感じ、そして、その悲しみは彼女…