小説『賢者の愛』
お金よりも大事なものがある、とはよく言われることです。真由子も本当にそう思います。けれども、それは、彼女の家がお金を意識しないでいられるくらいに裕福であるからこそ頷けることでしょう。山田詠美「賢者の愛」『賢者の愛』より お金に関して山田詠美…
おや、いつのまにか、喜劇と悲劇の境目が解らなくなってしまいましたね。まあ、よろしいでしょう。元々の出所は、たぶん一緒。人間の業が重なり合って起こすつむじ風が、その発端であるに違いないのです。山田詠美「賢者の愛」『賢者の愛』より 谷崎潤一郎の…
そして、今、女は、どぎまぎしながら真由子に美しい男を紹介されているのです。いえ、直巳を簡単に美しい男と呼んでしまうのは語弊があるかもしれません。彼の美しさは、最大公約数としての美とは、あまり重ならないのです。目に飛び込んで来る種類の美では…
まだまだつたないところは沢山あるけれども、ずい分と人の気を引く所作を身に付けた、と感慨深い気持になるのです。あのフルートグラスの掲げ方のあだな感じなんて、たいしたもの。そう思いついて、彼女は、吹き出したくなってしまいます。あだなんて言葉は…