CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

小説『風味絶佳』

Day 203rd 夕餉    

それまで、私は、自分の体がそうなるのを知らなかった。きちんと下ごしらえをされれば、私の体だっておいしくなる。欲しがられてると感じる。なんだか泣きたい気持。 山田詠美「夕餉」 『風味絶佳』より 自分の体を美味しいかもと思ったことはないけれども、…

Day 202nd 夕餉

紘の腕の中の空気は馥郁としている。まるで餡パンの中の隙間みたいだ。天然酵母の香りに酔っぱらいながら、私は焼き上がる。美々ちゃんの体、熱くなって来た、と彼が言う。山田詠美「夕餉」『風味絶佳』より 『風味絶佳』に収録されている「夕餉」は、空気感…

Day 179th 間食

食事がすむと、加代は西瓜を切った。彼女は食後に、いつも雄太の好きな果物を用意する。それは、季節の移り変わるのを感じさせ、彼は、子供の頃に想いを馳せる。夏休みの西瓜。庭に吐きだした種。プール帰りで体はだるい。まだ終わらないのかと疎ましく感じ…

Day 155th 間食

溢れちゃいそうな気がする。そんなことを腕の中で呟くものだから、何が? と雄太は尋ねた。あたしに注いでくれる雄太の愛情のことだよ。嫌なの? と不安になってうかがうと、全然嫌じゃない、とうっとりして答えたから安心した。もっともっと、と言うので、…

Day 5th 「夕餉」

私は男に食べさせる。それしか出来ない。私の作るおいしい料理は、彼の地や肉になり、私に戻って来る。くり返していると、どんどん腕は上がる。彼の舌は、私の味に馴染んで、もう、満腹になればそれで良い、なんて言わせない。 山田詠美「夕餉」より 短編小…