小説『チューイングガム』
価値あるものには、常に二つの種類がある。すぐに駄目になってしまうから高価であるもの。そして、どんどん味わいを増すから、高価であるもの。前者は、食料品。血や肉を作る。後者は、ワインやら宝石やら心を作るもの。この二つは相容れないと決まっている…
「あなたの目が大好きなの。最初に会った時から、そう思っていたのよ。私、その瞳に、これから関わって行きたいのよ」山田詠美「ウェットタオル」幻冬舎文庫『チューイングガム』より 山田詠美は瞳を使って登場人物たちの意志を伝えることが得意な作家である…
きみの手の握り方ときたら、まったく複雑で、こんなふうに訴えているように思えた。私、言っとくけど、素敵なのは会話だけじゃないのよ。ベッドの中のことも、うんと上手。だけど、あなたとやる気はないけどね。そんなふうに、危ういところで、するりとぼく…
苦しみは、喜びを引き立てる。そういう意味で、彼は、快楽主義者だった。安定と身を焦がす恋を同時に手にしようとして、自分をひりひりする場所に立たせていたのだ。「ウァッツ テイスティ?」 幻冬舎文庫『チューイングガム』より 「チューイングガム」は、…
私の周りを取り巻く女友達は、皆、とても大人で、人を傷つけて来た後悔を、せつない気持で抱えているから、始まりかけた恋には、少しばかり臆病だ。新しい恋に落ちる時、それは、彼女たちにとって、いつも初恋だと私は思う。 山田詠美「バック ステージ」より…
さまざまな恋の痛みで破損した心は、時がやさしく蘇生させてくれる。そして、新しくふさがった傷口が多ければ多い程、人は他人に思いやりを持てるもの。なかには、それを上手く活用出来なくて捨てばちな関係ばかりを追い求める愚かな女もいる。けれど、私は…