CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

小説『トラッシュ』

Day 198th トラッシュ

絶対的なものなんて、ない。何故なら、取るに足りない雑多なことで悩み、喜劇、悲劇を巻き起こす者たちが、起こり得る事柄を表記する、そういう世界が、すべてだからなのだ。山田詠美「トラッシュ」『トラッシュ』より 人間というのは、実に主観的な存在だと…

Day 197th トラッシュ

それは、一体、何故なのだろうと彼女は考える。ああ、そうよ、これはこういうことだわ。世の中のすべてを、人間という不確かなものたちが表わしているからなのだ。山田詠美「トラッシュ」『トラッシュ』より 「夏の暑さ」の種類の話から、さらに考察は広がっ…

Day 196th トラッシュ

次に何かが手に入る。それを知っているために、てなづけることが出来るような暑さもある。暑いというひとつの言葉さえ、こんなにもさまざまな種類がある。それには色も付いているだろう。匂いも立てているだろう。甘い味も苦い味も、ひとつの言葉で言い表わ…

Day 195nd トラッシュ

夏は暑かった。そう、いつも夏は暑い。それは大昔から決まっている事実なのだ。けれど、その事実には色々な種類がある。心を灼く恋の前ぶれを確信するようなもの。あるいは皮膚の呼吸を防げるもがき苦しむようなもの。それを感じた時などは、なにかを殺して…

Day 180th トラッシュ

憎むよりも、ひどい仕打ちは、忘れ去るということである。このことに突き当たると、彼女は絶望的な気持になる。彼女がリックに対して、どうしても成し得ない二つのこと、それが彼を憎むことであり、忘れ去ることなのだ。山田詠美「トラッシュ」『トラッシュ…

Day 156th トラッシュ

「ほんと? じゃあ、行く。ぼくなんてさ、黒人だからって、小さな頃には苛められ、今は、ゲイだからって、苛められて、ダウンタウン以外なんか、どっこも行きたくないくらいよ」山田詠美「トラッシュ」『トラッシュ』より NYのマンハッタンが舞台となった作…

Day 18th「トラッシュ」

何故、リックは、愛を上手くいかせてくれないのだろう、とココは思う。どうして、心まで気持ち良くしてくれないのだろう。そんなのは、簡単なことのように、彼女には思える。側にいて、触らせてくれればいいのだ。側にいて触る。自分の体に彼の心が流れ込む…