CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

小説『私のことだま漂流記』

Day 164th ゴールデン街をコミさんと

私は、カウンター内側で、まな板の上を歩くゴキブリの峰打ちに線ねんするようなふりをして、客たちの話に耳を傾けていたのであった。 その結果、解って来たのは、成功者は相手の不運に対して鈍感だということだ。大して、まだ陽の目を見ない者は、自分の不運…

Day 157th それは腹わたの問題

そう感じた私であったが、「ギャルズライフ」の進む方向はいただけいないと思っていた。煽情的なだけで、ちっとも魅力的ではなかった。性欲は肉体だけが支配するものではないのに。こんなにつまらない男女の交わりを教えたって何にもなんないよ。小学校の頃…

Day 142nd それは腹わたの問題

待ち合わせた喫茶店から家に帰るまでの間、涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。哀しみでこぼすのとは違い、悔しさで流す涙は頬を伝わらない、と知った。見開いた目から、粒のまま転がり落ちるのだ。山田詠美「それは腹わたの問題」 『私のことだま漂流記』より 半…

Day 104th「山田家が始まった」

人を理系と文系に分けるのは、あまりにもざっくりとしていて、大雑把に過ぎるとは思う。けれど、この先、何が待ち受けているか解らない子供はともかく、未来より過去の分量が多くなった大人に関しては、分類は出来るかも。「山田家が始まった」講談社『私の…

Day 91st    「めざせ、読者のなれの果て」

いい加減さをマスターしたのか、世にいわれる「こだわり」というものが格好悪く思えて来た。そもそも小説家にとって、自分の文章の句読点以上にこだわるべきものなどあるだろうか。「めざせ、読者のなれの果て」『私のことだま漂流記』より 山田詠美の半自伝…

Day 86th    「明日、死ぬかもしれないよ」    

この「はははは」とか、「あはははは」は、宇野先生が時々お書きになる笑い声なのであるが、私も真似するのだ。何故なら、これには言霊が宿っているらしく、手書きの私が綴っていると、本当に笑い出したくなって来るから。ちなみに、「えっへん」は、私の好…

Day 39th「明日、死ぬかもしれないよ」

私は、一九五九年二月八日、東京都板橋区で生まれた。もちろん、三島由紀夫ではないので、その時の記憶があるとは書かない。彼は自伝的小説「仮面の告白」の冒頭で、産湯をつかわされた盥のふちの水のことを書いているが、本当かな? もしそうなら羨ましいと…