CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

小説『フリーク・ショウ』

Day 194th ルーシィ

彼女は、それまで、そんな服を自分が着るようになるであろうことなど想像もしていなかった。最初は、そりゃあ、どぎまぎしたわ。けれど、一度、着て、そして、人の視線を動かすことへの喜びを知って以来、彼女はスカートの後ろに入っている深いスリットを自…

Day 193rd ルーシィ

口紅はドレスを選ぶまで塗らない。サオリはクロゼットを開けて増え始めたドレスをながめる。この週末の儀式を知る前までは、どんな女たちが身に付けるのだろうか、と不思議にさえ思えた大胆な服たち。今、彼女は、自分がその服にぴたりと合う女になろうとし…

Day 176th マーク

あなたは女に慣れてもいないし、すれてもいないわ。そこで、アレックスは私に合わなかったのね。ああいう男を自分で変えて見せるのも、楽しみのひとつだけど、私は、そこまで大人じゃないし、暇でもないわ。恋の醍醐味は真面目になることよ。あなたには、ま…

Day 151st マーク

ダンスはセックス以上に性的だ。何故なら、とびきりの手段であるあの部分を決して使わないから。だからこそ、体を一層、美しく効果的に使おうと努力する。あの部分を使ってしまえば、事は容易く進んでしまうのに、そうではないから、筋肉はとても苦労する。…

Day 119th「マーク」

「ひとりの男には、必ず、一曲のラブソングと、一瓶の香水の思い出がついてまわるものよ」「マーク」『フリーク・ショウ』より 元々、ぼくはそれほどソウルミュージックというものに親しみがなかった。しかし、山田詠美と出会ってから、意識してソウルミュー…

Day 81st    「マーク」

音楽はマーク達にとって重大な問題だ。そして、それに合わせて体を動かすということも。そんな自分達を受け入れてくれる女達がいなくては、お話にもなりゃしない。音楽とダンスと女達。普通に育ったほとんどのブラザーにとって、この三つは、食事をするのと…

Day 45th「ルーシィ」

アパートメントのドアを開けるとき、サオリは部屋の中から流れ出てくる空気が朝とはまるで違ったものに変化しているように思う。彼女の本当の人生の準備が既に部屋の中でなされているようにすら感じる。彼女はひっ詰めていた髪をほどいて、首をふる。すると…