CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

小説『ジェントルマン』

Day 285th ジェントルマン

母は束縛される人となった。彼女は、自分をついばんでは去って行く男たちとの過去に倦み疲れ、誰かのものとなるのを切望していたのだろう。がんじがらめにされて楽になりたかったのだ。そこには、もう、何も選択する迷いも必要もなく、ただ身を永遠にそこな…

Day 192nd ジェントルマン

苦手な会話を上手く行かせるためには、まずは体を許し合わなくて始まらない。体が馴染めば、心もその内に付いて来る。恋と無縁の関係に、気のおけない親しみを運び込むためには、この優先順位が欠かせない。山田詠美「ジェントルマン」『ジェントルマン』より…

Day 130th ジェントルマン

二人は、同じ高校の連中が来ない珈琲店の片隅のスタンドで、長い時間、語り合った。放課後のすべてを分け合ったと言っても良い。感動した本や映画、夢中になっている音楽などについて。出会う以前の自分に関する事柄を報告するのにやっきになった。そして、…

Day 106th「ジェントルマン」

おれの目を通して見えるものは、その辺の奴らのとは違うんだ。ほら、抽象画を描く画家が時計を見ると、ぐにゃりと曲がって視界に映るようにね。反対に言えば、ぐにゃりと曲げられない時計におれは興味なんてない。ぼくはダリの絵を思い浮かべる。画布に固定…

Day 77th    「ジェントルマン」

漱太郎のこの顔を見る男は自分ただひとり。そう改めて思うことが、夢生を歓喜で包んだ。長い間、目で追い続けながらも、魅惑の一歩手前で退屈の烙印を押したあの男が、今、正体を現して、自分の身も心も奪っている。触れられている訳でもないのに、体の力が…

Day 43rd「ジェントルマン」

でも、ぼくには見える。きみが自ら選んだこの場所が、二人を最も近づける空間。そこに仮設された懺悔室。その存在が、ぼくには見える。 告解をするのは、きみ。それに耳を傾けるのはぼく。カソリックと違うのは、ぼくが神父ではなく、迷える子羊の方だという…