CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

小説『明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち』

Day 206th 明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち

思いも寄らない生意気な口調が可愛くてたまらない、というように、母は創太を抱き寄せた。そして、リズムを取るようにして、彼の小さな体を揺する。そうしている内に、彼女の目尻はとろりとたれて、繊細に枝分かれした皺が笑顔を刻み始める。コーヒーカーテ…

Day 168th 明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち

我家には大人のために酒はふんだんに用意されていたが、それらは、楽しみを倍にするためだけに使われていた。そのことは、子供たちも充分意識していて、大人たちの、酒を飲もうという提案を小耳の挟んだだけで嬉しくなったりしたものだった。シャンパンの栓…

Day 10th 「明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち」

人生よ、私を楽しませてくれてありがとう。母方の曾祖母は、九十六歳で息を引き取る間際、愛用のスケッチブックにそう書き残した。そのラストメッセージは、彼女と関わりを持つすべての人に語り継がれて行き、理想的な人生を締めくくったひと言として、羨望…