CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

小説『カンヴァスの柩』

Day 173rd BAD MAMA JAMA

出会いの快楽というものがある。マユコは数年間、その快楽をつなぎ合わせてそれまでの人生を送って来た。そして、恋愛の楽しみ方というものを勉強して来たのだ。人は、そんな彼女をすれっからしなどという古い言いまわしで読んだりしたけれど、彼女はまった…

Day 161st カンヴァスの柩

部屋の中には空もないのに二つの星は輝いていて、それの照り返しでそのうち十個の爪も銀色に輝いている輝き始めて、その頃にはもう彼女の瞳も闇に慣れているから自分の上に重なる黒い絹に反射する月の明りに気づくことも出来る。山田詠美「カンヴァスの柩」…

Day 63rd 「カンヴァスの柩」

恋の始まりは寂しいと思うことに似ている。それを彼女は知っていた。彼女は、相手の心の中の自分の不在をこれからしばらくは我慢しなくてはならないであろうと思った。「カンヴァスの柩」『カンヴァスの柩』より 「カンヴァスの柩」も「熱帯安楽椅子」と同様…

Day 56th「BAD MAMA JAMA」

出会いはいつも視線から始まる。自分のことを欲しがる男の視線に女は敏感だ。それが、自分の体だけを欲しがっているのか、おまけに心も欲しいのか、そのくらいを見分ける訓練は充分に積んで来ている。そして、その、欲ばりな視線だけが、他を選り分けて自分…

Day 29th「オニオンブレス」

ここにいれば、少なくとも彼は一個の人間だった。彼は少しの刺激で泣いてしまいそうに感じていた。たとえ彼が、このよれよれの上着のかわりにタキシードを着ていても、彼の気持は、いつも泣きそうなのだった。 山田詠美「オニオンブレス」より 「オニオンブ…