小説『ファースト クラッシュ』
私は、不憫な力を労わりたいのだ。唇で触れて、涙を流していたらぺろぺろと舐める。獣の毛づくろいみたいな感じ。その想像をするとくらくらする。興奮の極みで目眩によるくらくら。それを感じたいがために、力を不憫な状態に置きたいのだ。山田詠美「ファー…
他者の心の中で起こった感情の揺れが表情や仕草に浮き出るのを目撃するのって、その辺のドラマよりはるかに私をわくわくさせる。学校の友達が騒いでいるテレビ番組や漫画なんて目じゃない。山田詠美「ファーストクラッシュ」『ファーストクラッシュ』より 「…
そう、不憫、みなし子、しがない、足手まとい……私を泣かせる用語たち。のっぴきならないなんて、生まれて初めて使ったのよ。力のせいで、私の頭の中には、どんどん言葉が補充されて行く。しがないみなし子のくせに。「ファースト クラッシュ」 文春文庫『フ…
初恋は、しばしば「ファースト ラブ」と訳されるけれども、そこでイメージされる淡い酸っぱい感じとはとは全然違うと私は感じている。少なくとも、私の場合違っていたということだ。可愛らしく微笑ましいものなんかじゃなかった。それは、相手の内なる何かを…