CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 280th 熱帯安楽椅子

私は口がきけなかった。私はこの島の夕陽を知っていたが、夕陽の忘れものを知らなかった。波は砂を舐めて動き、転がる金の雫は夕暮れの闇に混じって藍色になる。金箔は足許ではかなくたゆたい、私は泣きたくなる。
山田詠美「熱帯安楽椅子」
『熱帯安楽椅子』より

昨日の夕陽の場面の続きである。
砂を舐めるように照らす夕陽のことを「夕陽の忘れもの」と表現し、さらにその後の美しい言葉の数々に、詠美の描写力の高さを感じる。
この作品のハイライトというのも解ってもらえるだろう。
しかも、この作品全体を通して読んでいると、よりこの場面の美しさも際立つし、そして、耳も聞こえない、話も出来ないトニが私を連れて来ることで、愛の告白をしたというのも納得できる。
【DATA】
山田詠美「熱帯安楽椅子」
集英社文庫『熱帯安楽椅子』
KEN'S NIGHT M5レフィル<波乗夏休暇>
KEN'S NIGHT 2nd Bonus Track I Feel Pretty