CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 279th 熱帯安楽椅子

 彼は静かに指を差した。私はその方向に目をやり息を飲んだ。濡れた砂は沈んだばかりの夕陽を吸い込んで私たちの前に広がっていた。それは海に落ちる夕陽の色よりもはるかに赤いのだった。白い砂は打ち寄せる静かな波のベールをかけて黒く化粧をする。そして、その上には夕陽の薄絹が静かに横たわる。
山田詠美「熱帯安楽椅子」
『熱帯安楽椅子』より

このシーンは「熱帯安楽椅子」のハイライトシーンと言えるだろう。もっとも印象に残る場面だ。
数年前、定期的に行われている朗読会で、始まる前詠美さんが「今日は健ちゃんの好きな小説読むよ」と教えてくれて、その時、ぼくがまっさきに読んで欲しいと思ったシーンがこの夕陽のシーンだったのだが、ぼくの予感があたり、詠美さんはその前後のシーンを朗読してくれて、ぼくは詠美さんの声を耳を通してこの作品を堪能することができた。
今までぼくはこんな夕陽を見たことがないので、これから先、こういう夕陽を見ることはあるのだろうか?とうっとりとしてしまった。
【DATA】
山田詠美「熱帯安楽椅子」
集英社文庫『熱帯安楽椅子』
KEN'S NIGHT M5レフィル<波乗夏休暇>
KEN'S NIGHT 1st Track 02 Autumn in New York