CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 278th 熱帯安楽椅子

 嫉妬は、私の場合、肉体から生まれた。肉体を束縛したいと思うことから始まっていた。今、この島で私はそうは思わない。私は瞬間という言葉を愛する。それは、空気であり、それを作り出す男の肌であり、私へのいたわりに満ちた男の瞳であり、それを受け止めることの出来た時の雨、あるいは太陽の陽ざしである。私の愛情は今、粘り気を失ってさらさらとした金粉になる。いつでも、つまむことが出来て、そして、おいしい。私は嬉しさになくことすら出来る程に、その瞬間、真摯になる。
山田詠美「熱帯安楽椅子」
『熱帯安楽椅子』より

嫉妬というのは、一体どういう心理なのだろうか。
特に性愛における嫉妬とはなんだろう。
肉体を束縛すること、他の人には相手の肉体を渡したくないという気持ちの表れが、嫉妬につながるといことなのだろう。そして、それは束縛ということでもある。
しかし、「私」はこの島で、その束縛から逃れ、その瞬間瞬間でワヤンとの情事を続ける。ここで、「男をひとりだけ選んで愛してしまった」過去の呪詛から解放されるのだろう。
【DATA】
山田詠美「熱帯安楽椅子」
集英社文庫『熱帯安楽椅子』
KEN'S NIGHT M5レフィル<美酒摩天楼>
KEN'S NIGHT 3rd Track 06 The Days of Wine and Roses ※ラメ入り