CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 258th 熱帯安楽椅子

 雨は止まない。私たちの遊びは続く。外は洪水になり、私の記憶は霧になる。目に入るのはグダン・ガラムの赤い箱。そして、決して私を探ろうとはしない私の太股に置かれた彼の左の手。私は溜息をつく。そして、彼も。何故なら私の右ても彼の脚の間を可愛がっていたから。雨は降り注ぐ酒のように私たちを酔わせる。
山田詠美「熱帯安楽椅子」
『熱帯安楽椅子』より

私の記憶は霧になる。
雨は降り注ぐ酒のように私たちを酔わせる。

など、このシーンもメタファーの連続だ。
エロティックなシーンであるのに、それがまったく嫌らしく感じられないのは、こういったメタファーによって彩られているからなのかもしれない。
詠美の作品が三流のいわゆるエロ小説と明らかに一線を画しているのは、そういった文章表現になるのだろう。
ここまで美しくエロティシズムというものを描いているという点でも、この「熱帯安楽椅子」という作品は最高傑作だとぼくは思うのだ。
【DATA】
山田詠美「熱帯安楽椅子」
集英社文庫『熱帯安楽椅子』
KEN'S NIGHT M5レフィル<雨景摩天楼>
KEN'S NIGHT 3rd Track 08 It's Only A Paper Moon