CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 77th    「ジェントルマン」

 漱太郎のこの顔を見る男は自分ただひとり。そう改めて思うことが、夢生を歓喜で包んだ。長い間、目で追い続けながらも、魅惑の一歩手前で退屈の烙印を押したあの男が、今、正体を現して、自分の身も心も奪っている。触れられている訳でもないのに、体の力が抜けて来る。こんなことが出来る男だとは、あの頃、思ってもみなかった。こんなにも自分を疼かせる男だとは。
「ジェントルマン」『ジェントルマン』より

「ジェントルマン」を一言で表現するとしたら、「ピカレスク小説」と言えるだろう。つまり、「悪漢小説」ということだ。
とにかく、漱太郎という男が悪漢極まりない。極悪人とはこういう男のことを言うのではないだろうか。だが、それはあくまでも裏の顔だ。表の顔は完璧なまでの男。
そして、その男に魅かれるのが夢生だ。この二人のいびつな関係を決定的なものにしたのが、上記のシーンである。
とにかく、読んでいて、何とも言えない感情が沸いてくる。体の芯の部分が熱く燃えるような感覚。それは欲情とかそういうものではなく、怒りとも憧れともいえるような、独特の感覚が芽生える。
とにかくこの「ジェントルマン」は独特の熱を持った作品だと思うので、ぜひこれから読む人は覚悟して読んで欲しい。


【DATA】    
山田詠美「ジェントルマン」
講談社文庫『ジェントルマン』
KEN'S NIGHT M5レフィル<流星摩天楼>
KEN'S NIGHT 1st Track 07 Stardust ※ラメ入り