CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 177th ジェントルマン

 夢生の鼻先に漱太郎の指に挟まれた麻布があった。それは、白地に紺色の糸でイニシャルの刺繍が施されたものだった。S・S。母親によってかけられた手間が、こんなところにも行き届いている。そういう慈しみを惜しげもなく与えられて来た奴なんだ。そして、それが当り前だと思っている。ないものねだりをしたことがない人間。強烈な羨望を感じた。彼を形造って来た土台は、その傲慢さまで優雅でくるんでいる。だって、ほら、こんなに整えられた爪。つやつやと輝いている。女の皮膚に食い込み、グロテスクな痕跡すら残していたのに。
山田詠美「ジェントルマン」
『ジェントルマン』より

山田詠美の描く魅力的な男性像というのがある。「ぼくは勉強ができない」の時田秀美もそんな一人だ。ひょうひょうとしていて、誰からも好かれてしまう、いわゆる「人たらし」。そして、「ジェントルマン」に登場する漱太郎もまさにそんな男の一人だ。
夢生はそんな漱太郎に対して恋愛感情を持つわけだが、その根底には「羨望」や「憧れ」のようなものも入り混じっていて、彼に対して好きの気持だけではない、別の感情も持ち合わせていることを作品の端々から読み取れる。
【DATA】
山田詠美「ジェントルマン」
講談社文庫『ジェントルマン』
KEN'S NIGHT M5レフィル<赤色日本景>
KEN'S NIGHT 2nd Track 3 The Girl from Ipanema ※ラメ入り