CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 225th 陽ざしの刺青

 初めての夏を通り越して来たその赤ん坊は、もう既に陽に灼けている。彼は、生まれたてのくせに、母親以外の女の体を見たことがある。成長して行く過程において、彼がそのことを忘れて行ってしまうのは、残念なことだ。人間がどんなに身勝手で、そして、強い感情と融通のきかない肉体を備えているかを、まだ口をきけない時に目撃した。そんな幸運に恵まれた赤ん坊は滅多にいないものだ。
山田詠美「陽ざしの刺青」
『色彩の息子』より

山田詠美は、三島由紀夫をリスペクトしているとあちこちのインタビューや対談で語っているのだが、この作品は恐らくそんな三島由紀夫の「午後の曳航」へのオマージュだとぼくは思っている。
三島由紀夫も、山田詠美と同様に肉体に非常にこだわった作家だし、作品の中でもその肉体に関する記述が多い。ぼくは大学院時代に三島由紀夫の作品における身体性をテーマに卒業論文を書いたことがあるのだが、そういう点で山田詠美との共通点は多く、上記のシーンでもそんな肉体に関する強烈な印象を読者に与えると思う。
【DATA】
山田詠美「陽ざしの刺青」
集英社文庫『色彩の息子』
KEN'S NIGHT M5レフィル<海辺夏休暇>
KEN'S NIGHT 2nd Track 3 The Girl from Ipanema ※ラメ入り