CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 115th「健全な精神」

「そりゃ、いいわよ。安心出来るわ。でも、男と女のことに関しては、どうかしら。つまんないわよ、あんまり健やかなのってさ。体が健全なのは基本なのよね。健康な肉体って素敵だと思う。特別な好みを持つ人もいるけど、たいていの人は、健康な肉体に性的なアピールを感じるわ。肉体って、即物的なもんだもん、恋愛においてはね。解り易いっていうの? でも、精神状態も、健全だってのは困るのよ。もっと、不純でなきゃ。いやらしくないのって、つまんないよ」
山田詠美「健全な精神」
新潮文庫『ぼくは勉強ができない』より

男子高校生を主人公とした「ぼくは勉強ができない」は女子高生が主人公の「放課後の音符」とともに、山田詠美を代表する青春小説だと言われている。
どちらもそれぞれ、主人公の目を通して「本当に人生において大切なことは何か」ということが描かれていて、ぼくは大人になってからこの作品を読んだのだが、もしリアルタイムでこの作品に出会っていたら、人生少しはもっと豊かになっていたんじゃないかと思っている。
さて、上記の文章からも健全な肉体と健全な精神ということについて書かれていて、これもまた詠美の永遠のテーマである心と体の問題を別のアプローチで考察していると言えよう。
そして、やっぱりぼくもまったく同じように感じている。
例えば、ぼくは体の美しい鍛えた男が好きなのだが、単に体が綺麗なだけではまったく刺さらない。そこに、どこかエロティシズムのようなものがないと欲情しないのだ。じゃあ、そのエロティシズムというのはどんなものかを言語化しろと言われると、非常に困ってしまう。
言葉には言い表せないようなその人のもつオーラというか、何かがぼくの何かを掻き立てるのである。
退廃的というか、どこか影があるというか。複雑な雰囲気を持った人というのは非常に魅力的で、上記の文章には全面的に同意しかないんである。

【DATA】
「健全な精神」
新潮文庫『ぼくは勉強ができない』
KEN'S NIGHT M5レフィル<方眼摩天楼>
KEN'S NIGHT 2nd Track 9 Round Midnight ※ラメ入り