CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 51st    「声の血」

ぼくは記憶をたどる。すると、うっとりと雫を垂らした思い出が、ぼくの内側から外に流れ出し、あまりの恍惚に、ぼくの目を閉じさせる。ぼくが、あの人との情事の素晴らしさを知るのは、いつも残された記憶の中でなのだ。恋は盲目と言うけれど、まさにその通り。あの人と体を合わせている時は、ぼくは夢中で何も目に入らない。
山田詠美「声の血」『色彩の息子』より

山田詠美は恋愛小説の名手と呼ばれることが多いが、実は純文学系の短編集にも定評がある。
「色彩の息子」「晩年の子供」といった初期の短編集にもその片鱗がうかがえ、ぼくは実は山田詠美という作家は直木賞ではなく、芥川賞でも良かったのではないかと思っている。
実際に山田詠美直木賞を受賞する前は何度も芥川賞の選考に選ばれているのだが、結局直木賞の方を受賞することになり、でも今は芥川賞の選考委員を務めている。
さて、『色彩の息子』は色にまつわる短編を集めたもので、単行本(新潮社)には一篇ごとに色紙が挟まれているという凝りよう。
「声の血」は大人のためのホラー小説という近年の山田詠美の作品にも見られる物語の傾向がすでに垣間見れる作品ではあるが、そのような小説の中にも上記のような詠美らしい文章が散りばめられており、ぼくはうっとりとしてしまうのである。

【DATA】
山田詠美「声の血」
集英社文庫「色彩の息子」
KEN'S NIGHT M5レフィル<美酒摩天楼>
KEN'S NIGHT 1st Track 09 Moonlight Serenade