CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 207th GIと遊んだ話(一)

 抱いたり抱かれたりしながら、多美子が思い浮かべていたのは、羅紗緬という言葉だ。ろくに本も読まない自分に、漢字の字面が横切ったのは不思議だ。羅紗緬だって⁉ 確か横浜開港以来の西洋人相手の妾のことだ。そんな呼称が頭の片隅に眠っていたなんて驚きだ。ここに漂う淫靡な空気によって目覚めて、そして引き摺りだされたのか。それにしても薄気味悪い部屋だ。天井にいくつもある滲んだような節穴が、まるで女たちの目のように見える。じっと、こちらを見降ろしているかのようだ。恨みがましい視線が、とろりとたれて来そう。
山田詠美「GIと遊んだ話(一)」
『タイニーストーリーズ』より

前にも書いたと思うが、『タイニーストーリーズ』に収録されている「GIと遊んだ話」は、山田詠美の若い頃の話が基になっていると思われ、それだけに当時の詠美さんの周囲の様々な文化がわかって、読んでいてとても楽しい。詠美がデビューした頃の作品に漂う空気感もあるので、これはぜひまた何かの形で続編を書いて欲しいと思っているくらい。
横浜を舞台にしたこの作品にしても、そういうホテルは確かにあったかもしれないと思わせる筆致で、ぼくはそれ以来、そのホテルがどのあたりにあるのかを突き止めたくてたまらなくなる。
一度詠美さんにちゃんと取材をして、その辺りを調べてみたいと思っているくらいだ。
【DATA】
山田詠美「GIと遊んだ話(一)」
文春文庫『タイニーストーリーズ』
KEN'S NIGHT M5レフィル<花火摩天楼>
KEN'S NIGHT 2nd Track 6 Autumn Leaves