CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 206th 明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち

 思いも寄らない生意気な口調が可愛くてたまらない、というように、母は創太を抱き寄せた。そして、リズムを取るようにして、彼の小さな体を揺する。そうしている内に、彼女の目尻はとろりとたれて、繊細に枝分かれした皺が笑顔を刻み始める。コーヒーカーテンから洩れる陽ざしで、頬の産毛がきらめいた。私は、その時、自分の母親を美しいと心から感じた。彼女が目に映るすべてのものを愛していた瞬間だったと思う。
山田詠美「明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち」

ひとつの家族となるべく東京郊外の家に移り住んだ二組の家族を巡る話。このシーンは、アルコール依存症になってしまう母親がまだ幼かった頃の自分の息子に対して接する時の様子を描いたものなのだが、読者はそのことを知っているだけに、このシーンがより鮮明に記憶に残る。

【DATA】
山田詠美「明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち」
幻冬舎文庫『明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち』
KEN'S NIGHT M5レフィル<青色日本景>
KEN'S NIGHT 2nd Track 5 A Night in Tunisia ※ラメ入り