CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 106th「ジェントルマン」

おれの目を通して見えるものは、その辺の奴らのとは違うんだ。ほら、抽象画を描く画家が時計を見ると、ぐにゃりと曲がって視界に映るようにね。反対に言えば、ぐにゃりと曲げられない時計におれは興味なんてない。ぼくはダリの絵を思い浮かべる。画布に固定された、天才に歪められた時間。あれも、また、そそられた故の産物なのか。
「ジェントルマン」    
講談社文庫『ジェントルマン』より    

悪漢小説のことをピカレスク小説と呼ぶ。
この「ジェントルマン」はまさにそんな悪漢小説だ。
でも、この悪漢小説の悪いところは、極悪人なのに、強烈な魅力で人を惹きつけてやまない登場人物が出て来るところ。
そんな登場人物の一端を垣間見ることができるシーンがこの部分だ。
美というものの見方を教えてくれる場面でもある。
人によって、美の基準というのは違ってきて、だからこそそこが面白い。
そして、その美の基準をきちんとこのように言語化しているところも詠美の面白さなのではないだろうか。
【DATA】    
山田詠美「ジェントルマン」    
講談社文庫『ジェントルマン』    
KEN'S NIGHT M5レフィル<流星摩天楼>    
KEN'S NIGHT 1st Bonus Track Thank You for the Music

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