CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 72nd    「A2Z」    

自分は、今日も、彼の甘いものとして振舞えるかしら。甘さに深刻は似合わない。私は、キャンディのようにつまみ食いされたい。けれど、時々、ボックスに入っているキャンディが、たったひとつだけならいいな、と思う。急ぎ足の私の頬に当たる空気は日ごとに冷たくなっている。そして、向かう部屋のドアの内側は、日ましに熱くなっている。ドアベルを鳴らすか鳴らさないかの内に扉を開ける彼のたたずまいで、それが解る。そこには、少しばかりの深刻が滲んでいて、私は、瞬間、息を止める。もうキャンディは、前のように甘くない。けれど、だからこそ、よりいっそう美味なのだ。
「A2Z」    『A2Z』より

2023年2月からAmazonプライムにて深田恭子主演でドラマ化された作品。
比較的原作に近い形でドラマ化されていて、そういう意味ではとても興味深いのではあるが、20年以上も大切に読み返してきた人間からすると、原作のイメージがあまりにも強すぎて、違和感も覚える箇所も多々ある。
だから、ドラマと原作は別物としてみた方が良いだろう。
ただ、まだ詠美を知らない人が、ドラマをきっかけに見始めたら、意外と面白いんじゃないかと詠美フリークとしては非常に期待している。
何が良いかというと、とにかく全編、詠美節を味わえるところ。こういう表現、詠美にしかできないよね、という場面が多々登場するので、ぜひそんなところも味わって欲しい。
作品を読んだら、きっと恋に落ちたいと思うようになるだろうし、恋をしている人はさらに今のその恋がより豊かなものになるに違いない。

【DATA】    
山田詠美「A2Z」    
講談社文庫『A2Z』
KEN'S NIGHT M5レフィル<赤色日本景>
KEN'S NIGHT 1st Track 09 Moonlight Serenade