CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 73rd    「ココナッツオイルぬるむ春」

 なあんて、ぼおっとしている内に、もう春です。日本には「水温む」という素敵な春の季語がありますが、この数年、私は台所に置いてあるココナッツオイルの緩み具合で春の訪れを実感します。真冬、かちんかちんに固まっているそれを、スプーンでごりごり削り取手カフェ・ラテに落とす時、まだまだ寒い日が続くんだろうなあと、少し不安になります。宇都宮の実家にいる年老いた両親には厳しいんじゃないかなあと、心配してしまうのです。
 けれども、やはり、毎年春はひっそりと忍び寄る。ふと気付くと、ココナッツオイルは、クリームのように優しくスプーンを受け入れてくれるようになるのです。    
「ココナッツオイルぬるむ春」『吉祥寺デイズ: うまうま食べもの・うしうしゴシップ』より    

山田詠美は、長寿エッセイ「熱ポン」シリーズの他にいくつかの連載エッセイを持っていたが、今はどのエッセイも終わってしまい、詠美のエッセイが大好きだったぼくにはちょっと物足りない日々が続いている。
この「女性セブン」で連載されていたエッセイは媒体に合わせて、時事ネタが多く、それだけではなく、詠美の日常生活を垣間見ることができるエッセイ集でもある。
春が近づくこの季節をココナッツオイルを通して感じているなんて、詠美らしくて微笑ましいと思う。
今年は一体どんな気持でこの季節を過ごしているのだろうか。今度お会いした時に聞いてみたいと思う。

【DATA】    
山田詠美「ココナッツオイルぬるむ春」    
小学館文庫『吉祥寺デイズ: うまうま食べもの・うしうしゴシップ』
KEN'S NIGHT M5レフィル<桜舞摩天楼>
KEN'S NIGHT 2nd Bonus Track I Feel Pretty