CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 52nd    「血も涙もある」

 私の趣味は人の夫を寝盗ることです。などと、世界の真ん中で叫んでみたいものだ。たぶん四方八方から石が飛んで来るどろうけど。そして、この性悪女! なあんて、ののしられたりする。不倫の発覚時には、何故かこういう古めかしい罵倒語が復活するから驚きだ。あばずれとか女狐とか泥棒猫とか。狐と猫、かわいそう。
「血も涙もある」『血も涙もある』より

「私の趣味は人の夫を寝盗ることです」という衝撃的な一文で始まるこの小説は、一言で説明するなら、不倫小説だ。
愛人、夫、妻のそれぞれの視点から紡ぎだされる物語の形式は、山田詠美の得意とする手法。
それぞれの立場に、それぞれの言い分があり、人生というのはそういうものだよな、と納得させられる。
本来であれば、人は三人称で生きていくことはできない。小説で三人称で書くことができるのは作者が神様という立場で書けるから。
しかし、人間というのは、他人の目線を借りることができないわけだから、常に一人称。だから、この小説は、もし自分と同じ考え方の主人公がいればその人の一人称で語られるチャプターに共感できるだろう。
しかし、たとえ共感できなかったとしても、そういう考え方もあるんだなと納得することができれば、物語は俄然面白くなってくる。
ぜひ、そんないろんな視点で語られる、いわゆる世間で言われるところの「不倫」とやらについて想いを巡らせてみるのも良いだろう。

【DATA】
山田詠美「血も涙もある」
新潮社『血も涙もある』
KEN'S NIGHT M5レフィル<夜景摩天楼>
KEN'S NIGHT 2nd Track 5 A Night in Tunisia