CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 50th

 それにしても、いつ彼らは心を通いあわせたのだろう。言葉はかわされなかったはずだ。もし、話をしたのなら、ぼくが目を覚まさないわけがない。それでは、見詰め合っただけで恋に落ちたのだろうか。そんなことがあり得るのだろうか。金色のクリームだ。彼はそうひとこと言っただけだ。その言葉を作り出した彼は、もう既にその時、恋に落ちていた筈だ。それを聞いた時の彼女の瞳。世の中には、それしか言葉がないのだというくらいに真剣な色をしていた。多分、そうなのだろう。彼女には、それうぃか言葉は存在しないのだろう。その言葉を聞くために、彼女は生活のすべてを費やしているのだ。恋が創り上げて口から押し出させた言葉。
「HER」『24・7(トウェンティフォー・セブン)』より

月刊プレイボーイに初掲載された短編小説。
インドを舞台にして描かれた作品で、行間からインドの砂漠の熱気が伝わってきそうな描写が多く、ぼくも大好きな作品である。
恋に落ちる瞬間を描かせたら山田詠美の右に出るものはいないとぼくは思っているのだが、ここで描かれているのも、そんな詠美の視点から描かれた男女の恋の始まりの場面。
しかも、どちらも非常に魅力的で、まるで映画のワンシーンを見ているかのような場面が多く、映像として心に刻まれる作品だとぼくは思っている。

【DATA】
山田詠美「HER」
幻冬舎文庫『24・7(トウェンティフォー・セブン)』
KEN'S NIGHT M5レフィル<彩酒摩天楼>
KEN'S NIGHT 1st Bonus Track Shine