CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 85th    「小説の“熱い自由”」

 私は最近あまり都心には出ずに、中央沿線に住んでいる友達とばかり会ったりしているんですね。よく西荻窪あたりをサンダル履きでうろうろしているんですが。今回の短篇集は舞台を東京という大きいくくりではなくて、もっと小さい、限定された地域にして書きたいという気持ちがありました。それで、「姫君」では中央線の、それも私がすごく興味を持っている三鷹から高円寺までにいる若者たちを出自などにはあえて触れずに切り取って書きたいと思ったんです。それこそ、マンハッタンの数ブロックで世界が隔てられているために生活が生まれるような。まあ、中央線というのが、ヴィレッジなのかブロンクスなのかわかりませんけど(笑)。
「小説の“熱い自由”」(河野多惠子との対談)『文学問答』より

山田詠美が雑誌『文藝』の新人賞を受賞した時、彼女の作品を一番推したのが当時選考委員の一人であった河野多惠子である。
河野多惠子といえば、「幼児狩り」という衝撃的な作品で新潮同時雑誌賞を受賞し、その後の『蟹』で芥川賞を受賞した作家である。
その後も山田詠美が新作を出すたびに、河野先生から電話をもらったりするほど親交を深め、河野多惠子が亡くなる直前まで交流があったという。
そんな河野多惠子とのこの対談集はまだ文庫本になっていないものの、特に純文学に少しでも興味を持っている人であれば必読の書ではないかと思う。
ふたりの文学に対する真摯な姿勢を垣間見ることができる。
山田詠美中沢新一瀬戸内寂聴高橋源一郎、ぴーこ、安部譲二らと対談集を出しているが、それらとはまったく一線を画す対談集で、山田詠美がいかに幅広いジャンルを網羅しているかがわかる。
そして、この対談集を読んでいくと、やはりぼくは山田詠美という人はエンタメ系ではなく、純文学系の作家、つまり直木賞じゃなくて芥川賞の作家なのではないかという想いをさらに強くした。
そして、上記の部分では『姫君』について言及しているが、その後、山田詠美は中央線沿線を舞台にした『無銭優雅』という作品を書いていることからも、どれだけ彼女がこの地域に愛着を抱いているのかがわかる。
文藝春秋様、早くこの本を文庫本化して!!

【DATA】    
山田詠美「小説の“熱い自由”」
文藝春秋『文学問答』(河野多惠子との対談集)
KEN'S NIGHT M5レフィル<赤色日本景>
KEN'S NIGHT 2nd Track 9 Round Midnight ※ラメ入り