CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 93rd「ME AND MRS. JONES」

 彼女の唇はパイの匂いが残っていて、いつも甘い。僕は挨拶ではない口づけを彼女によって教えられた。その種の口づけはいつも性的な欲望とつながっていて、僕に彼女をベッドの上に押し倒させるのだった。
山田詠美「ME AND MRS. JONES」『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』より

直木賞を受賞した「ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー」は、8つの作品からなる短編集である。
この「ME AND MRS. JONES」の面白いところは、話者である山田詠美の影がまったくないところ。
つまり、日本人である女性の姿がそこには描かれていないのだ。
これは、黒人でゲイの作家ジェイムズ・ボールドウィンが白人の男性カップルを描いた「ジョヴァンニの部屋」と同じ感覚をぼくに与えた。
そして、この作品でも心と体の関係を「ミセズ・ジョーンズ」に語らせる場面があるので、いつかそこも取り上げてみたいと思う。

【DATA】
山田詠美「ME AND MRS. JONES」
幻冬舎文庫『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』
KEN'S NIGHT M5レフィル<祝祭摩天楼>
KEN'S NIGHT 1st Track 03 Fly Me to the Moon