CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 274th 熱帯安楽椅子

男は私のなりゆき。そして、それこそが私の愛するものであったことを私は思い起こす。男の肌はいとしい。そして、男の吐息が調合する空気はかけがいのないものだ。愛しているという言葉、それはただの音楽だ。美しい音楽。軽々しく使われるべきあどけない言葉。私はこの島で決して性愛に不自由していなかった。けれど、恋することに不自由していた。
山田詠美「熱帯安楽椅子」
『熱帯安楽椅子』より

この物語は私が「男をひとりだけ選んで愛してしまった」というひとつの間違いを犯してしまったことから始まる。
それまでは、気楽な恋愛を楽しんでいたのに、ひとりの男に執着をし、愛するようになってから、私は彼を、そして、自分を束縛するようになった。
「愛する」という言葉を使うことによって、相手を縛り付け、そして、自分をも縛ることになり、苦しくなるということはよくあることだ。
本来はもっと軽い気持で使われるべき言葉であるのに、それが出来なくなってしまう。
そんなジレンマのようなものがこの文章から読み取れる。
【DATA】
山田詠美「熱帯安楽椅子」
集英社文庫『熱帯安楽椅子』
KEN'S NIGHT M5レフィル<彩色音楽集>
KEN'S NIGHT 3rd Track 08 It's Only A Paper Moon