CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 259th 熱帯安楽椅子

私は彼の髪をつかみ上に向かせて唇を奪う。そこには私が裂け目から湧き出させる快楽が流れている。そこに棲息しているあの男の欲望の産物を私は殺すのだ。私は彼の股間に口をやる。南の国の熱。私の心は消毒されて行く。水田は溢れる。そして、私たちは溺れる。
山田詠美「熱帯安楽椅子」
『熱帯安楽椅子』より

ここでも、山田詠美ならではの、表現が続く。ここで描かれている「あの男」というのは、私が日本にいる時につばを吐いた男のことだ。ひとりの男を選んで愛してしまったというたった一つの間違いを犯してしまった男。その男のことを忘れたい一心で南の島に逃げるようにやって来た私は、ゆきずりの現地のタクシードライバーとの情事を通して、「あの男」を忘れ去ろうとしている。
それを官能的な、でも文学的な表現で描いている詠美の文章にぼくたちは溺れるのだ。
【DATA】
山田詠美「熱帯安楽椅子」
集英社文庫『熱帯安楽椅子』
KEN'S NIGHT M5レフィル<雨景摩天楼>
KEN'S NIGHT 2nd Bonus Track Don't Rain on My Parade