Day 273rd 熱帯安楽椅子
私はぼんやりと雨を聴く。何度、この音を聴いたことだろう。時には同じ音、そして時には違う音。いずれにせよ、今日のように熱い調べを私は聴いたことがない。何故だろう。何故、今日は違って聴こえるのだろう。私の心臓は雨の音に同調する。私の皮膚は譜面を広げ雨樋からの雫を受け止める。私の額は吸い取り紙になり頭の中を湿らす。そこは海綿。経血をすべて吸い取ってしまうあの海綿。
山田詠美「熱帯安楽椅子」
『熱帯安楽椅子』より
当然といえば、当然のことではあるのだが、東京で感じる雨と、バリ島で感じる雨はまったく異なる。バリ島に行くときは、旅行者なので、仕事で雨の中を歩くこともないから、感じ方が変わってくるのは当然のことなのだが。それでも、やはり両者は根本的にどこか違うような気がする。
さらに、その雨を誰と一緒に聞くことになるのか、によっても、雨に対する印象も変わって来るに違いない。
以前葉山にあった夏限定のカフェで店長をしていた時、あいにく雨が降った朝、ぼくはちょっとしたコピーを呟いたことがある。
ひとりで見る雨はメランコリック
ふたりで見る雨はロマンティック
みんなで見る雨はドラマティック
というもの。
雨も、一緒にいる人によって、その調べを変えるんだよなぁと、詠美のこの文章を読んで思った。
【DATA】
山田詠美「熱帯安楽椅子」
集英社文庫『熱帯安楽椅子』
KEN'S NIGHT M5レフィル<雨景摩天楼>
KEN'S NIGHT 3rd Track 10 Unforgettable ※ラメ入り