CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 230th 熱帯安楽椅子

 私の目の奥では沢山の色彩が焦点を結ぶ。華やかに、あるいは俗悪に。私はそれらの中で溺れかけて救いを求めて頭を抱え込む。私の睫毛は私を助けるべく下瞼をくすぐり始める。それが始まると私は反射的に目を開く。すると、そこには無関心な海や呑気な空が広がっている。私は安堵する。
山田詠美「熱帯安楽椅子」
『熱帯安楽椅子』より

この文章の中でもっともぼくが深く感銘を受けたのが

私の睫毛は私を助けるべく下瞼をくすぐり始める。それが始まると私は反射的に目を開く。

という部分。
これは単純に説明してしまえば、あの男のことを思い出し、涙がこみあげてくるということだと思うのだが、それをこのようなレトリックを用いて表現しているところに山田詠美の文章のうまさが表れているのではないだろうか。
そして、詠美フリークはそういう文章が読みたいのだ。そういう詠美ワールドにどっぷりと浸りたいのだ。
この作品はその詠美的文章がどのページにも溢れているから、何度読んでも堪能できるのではないかとぼくは思っている。
【DATA】
山田詠美「熱帯安楽椅子」
集英社文庫『熱帯安楽椅子』
KEN'S NIGHT M5レフィル<海辺夏休暇>
KEN'S NIGHT 1st Track 06 My Favorite Things