CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 268th 熱帯安楽椅子

 私は寺院の塀に寄りかかりワヤンと口づけをかわす。人気のない場所で私たちが目を合わせると彼の瞳は私に向かって溶けて来る。私は彼の唇を啜り込みながら、落ち着いてそれを味わう。それは酒のように芳醇ではなく、水のように乾きを癒すわけでもない。口に侵入する熱帯の果実。あの甘い汁をたらすだけの。
山田詠美「熱帯安楽椅子」
『熱帯安楽椅子』より

ホテルのボーイ、ワヤンとの情事の場面はとても官能的に描かれている。それまで「私」はタクシーのドライバーなどの現地の男との情事を楽しんでいたが、それらはすべてゆきずりだった。だが、ワヤンだけは彼女にとって特別な存在で、その描写はあきらかにそれまでの男たちとの情事とは異なっていて、濃厚で濃密。それを美しい文章で書き綴っているので、行間から熱い空気が流れてきそうだ。
【DATA】
山田詠美「熱帯安楽椅子」
集英社文庫『熱帯安楽椅子』
KEN'S NIGHT M5レフィル<流星摩天楼>
KEN'S NIGHT 3rd Track09 Preluede to a Kiss ※ラメ入り