CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 256th 熱帯安楽椅子

私は、転がっている熱帯の果物を踏まないように市場の中を通過する。折りたたまれたバナナの葉に流し込まれた粥を無心に食べ続ける少年。その濡れた唇は反吐を吐いたばかりのように見える。唾液の含まれたおいしい食べ物。私に不快感はない。目の前にくり広げられているものはすべて本能から生まれ出て来たものだから。
山田詠美「熱帯安楽椅子」
『熱帯安楽椅子』より

このシーンもバリ島の朝の市場で良く見られるシーンである。この場面の一番の肝は、

目の前にくり広げられているものはすべて本能から生まれ出て来たものだから。

である。中にはそれがわからない人もいるかもしれないが、良く良く考えてみると、そういう行為というのは、すべて本能に素直に従っているもので、そのことで不快感を抱くことは本能を否定することにもなるのだ。だから、この文章にハッとさせられる人も多いんじゃないだろうか。

【DATA】
山田詠美「熱帯安楽椅子」
集英社文庫『熱帯安楽椅子』
KEN'S NIGHT M5レフィル<青色夏休暇>
KEN'S NIGHT 3rd Track 07 As TIme Goes By ※ラメ入り