Day 263rd 熱帯安楽椅子
ワヤンという名前を私は彼のシャツのネームタグで覚えた。この島に数多くばらまかれている記号のような名前。私は沢山のワヤンを知っている。沢山のワヤンに触れたことがある。けれどその名前はひとつだけなのだ。私はワヤンの肌を知っている。この一文で私は数多くの秘め事を心に持つことが出来るのだ。物語などいらない。
山田詠美「熱帯安楽椅子」
『熱帯安楽椅子』より
この部分には、この小説の舞台となったバリ島らしい文化が隠されているので、その部分をある程度理解していないと、読み解けない部分がある。
それは、
この島に数多くばらまかれている記号のような名前。私は沢山のワヤンを知っている。
という箇所。
実は、バリ島では、子どもに付ける名前というのは、基本的に決まっていて、生まれた順番で名前を付けるようになっているのだ。
一番目に生まれた子どもは「Wayan」「Putu」「Gede」
二番目に生まれた子どもは「Made」「Kadek」
三番目に生まれた子どもは「Nyoman」「Komang」
四番目に生まれた子どもは「Ketut」
そして、五番目以降はまた最初の「Wayan」「Putu」「Gede」に戻っていくのだ。
だから、この箇所の「私は沢山のワヤンを知っている」というのは、そういうことだということがわかる。
それがわかれば、より、この部分の理解度が深まるだろう。
【DATA】
山田詠美「熱帯安楽椅子」
集英社文庫『熱帯安楽椅子』
KEN'S NIGHT M5レフィル<彩酒摩天楼>
KEN'S NIGHT 3rd Track 06 The Days of Wine and Roses ※ラメ入り