CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 228th 熱帯安楽椅子

目は開けなくては。けれど何も見たくない。私は、朝だというのにシャンペンを頼む。少しあきれた表情のウェイター。いいじゃないの。私は目を開いたままでうたた寝をしたいのよ。私は酒に酔った年老いた猫になる。目の前の卵も今度は目を閉じている。波の音。夜よりも陽気な。きっと、それは私の記憶を削り取る。私は熱に犯されながら、ぼんやりとそれを待つ。
山田詠美「熱帯安楽椅子」
『熱帯安楽椅子』より

山田詠美の『熱帯安楽椅子』での大きな特徴は、流麗な文体だけでなく、様々なレトリック、つまり比喩だ。それらが見事にパズルのように物語を形作っている。
この場面でいうと、「酒に酔った年老いた猫」「目を閉じている」卵、「夜よりも陽気な」「波の音」というように、様々なレトリックが見事に組み合わさって私の周囲を埋め尽くしていく。
読者はそれを文章から読み解き、それに酔いしれることができるのだ。
【DATA】
山田詠美「熱帯安楽椅子」
集英社文庫『熱帯安楽椅子』
KEN'S NIGHT M5レフィル<海辺夏休暇>
KEN'S NIGHT 2nd Track 3 The Girl from Ipanema ※ラメ入り