CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 227th 熱帯安楽椅子

 太陽は熱くて銀の食器は濃い影を作る。私は眩しさに目を閉じる。すると、私の心の中の幕は降り、私は余計なことを思い出さずにすむのだ。私には何も見えない。私は今日から何も見ないことに専念するだろう。陽ざしは私の後頭部を灼き、それから体の芯を暖める。私は怠くなる。そして、それは、酔っているように心地よい。
山田詠美「熱帯安楽椅子」
『熱帯安楽椅子』より

世界で一番好きな小説は?とたずねられたら、ぼくは迷うことなく山田詠美の『熱帯安楽椅子』と答えるだろう。
それほどまでにぼくはこの小説を愛している。
好き(Like)ではなく、愛している(Love)なのだ。
この小説と出会ったことで、ぼくは山田詠美を徹底的に分析し、追いかけたいと思ったし、この作品を翻訳なしに読める日本人であることに感謝したし、この作品で二度目の大学で論文を書いた。
では、『熱帯安楽椅子』の何が良いのか? ひと言で言うと「文体が素晴らしい」のである。
もう、とにかく徹頭徹尾文章が流麗で一切の無駄がない。
文章の隙間から空気が流れて来るような、そんな文体なのである。こんな文章を書ける人が今の日本にいるだろうか?
ストーリーそのものは大きな起伏もなく、淡々と進むのだが、それだけに文章が際立つのである。
特に詠美の永遠のテーマである肉体と心に関する記述は、この作品をさらに濃厚なものにしてくれている。
そんな文章を今日から8日間にわたってご紹介していきたいと思う。
シーンは、7月8日にも取り上げたホテルの朝食のシーン。
そのシーンは物語の最初の方のシーンで、『熱帯安楽椅子』がこれから展開していくにあたって、非常に大切なシーンだとぼくは思っている。
じっくりとその山田詠美の文体を堪能して欲しい。
【DATA】
山田詠美「熱帯安楽椅子」
集英社文庫『熱帯安楽椅子』
KEN'S NIGHT M5レフィル<海辺夏休暇>
KEN'S NIGHT 2nd Track2 Summertime