CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 245th Crystal Silence

「彼は誘って、私は誘わせたわ。ううん、どちらからともなくって感じかなあ。彼は、じっと私を見詰めてた。私のことを欲しいんだって、よく解ったわ。私も彼と同じように瞳を使ったの。えっ? どういうふうにって……欲しいものがこんなに目の前にあるのに、まだ手に入っていないっていう気持を伝えようとしたのよ。そしたら、涙が浮かんで来たわ。私、彼にそれを知って欲しかった。波のしぶきと涙が混じってしまわない内に、彼の首に手をまわしたの」
山田詠美「Crystal Silence」
『放課後の音符』より

詠美は、小説で男女が出会う時、登場人物たちに瞳を使わせるということをエッセイで書いているが、このシーンはまさに、そんな男女の出会いで瞳が使われた例のひとつである。
でも、島の少年は耳が聴こえず、言葉も喋れないからこそ、瞳で会話をするということなのだろう。そして、主人公も自分の想いを伝えるために、一生懸命だったんだと思う。
その彼女の一途さにぼくたちは惹かれるのである。
【DATA】
山田詠美「Crystal Silence」
新潮文庫『放課後の音符』
KEN'S NIGHT M5レフィル<海辺夏休暇>
KEN'S NIGHT 1st Track 01 Blue Moon