CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 246th Crystal Silence

「ロマンティックね」
「というより、なんだか悲しい気持だった」
「どうして?」
「あまりに幸せだったから」
 私は彼女の気持が解るような気がする。陽ざしがあまりに明るいと目の前が暗くなるように、人の心にも余分な影を落とす程の幸福というのがあるものだ。私は、ぼんやりと、かつて父と母が愛し合っていた頃の私の家を思い出していた。
山田詠美「Crystal Silence」
『放課後の音符』より

この場面も、大人になればなるほど、理解できる。幸せだからこそ、どこか、不安がよぎってしまったり、素直にその幸せを受け入れて良いのかわからなくなったりしてしまうことって、(こと恋愛に関しては)あると思う。
それは、でも、本当の恋愛をしているからこそ、なんだろう。恋をして、幸せで幸せで仕方がないというのは、それはまだまだ、恋の苦しさを知らないから。
恋に落ちると、今度はそれを手放してはいけないと思ってしまったり、失った時の悲しさを考えて、ちょっとブルーな気持になる。
そういうことをこの場面では読者に訴えているのではないだろうか。
<解説>
【DATA】
山田詠美「Crystal Silence」
新潮文庫『放課後の音符』
KEN'S NIGHT M5レフィル<海辺夏休暇>
KEN'S NIGHT 1st Track 05 When You Wish upon a Star