CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 253rd Crystal Silence

「私、あの島で色々なものを味わったわ。甘いお砂糖。苦い海の生きもの。塩辛い海の水。でも、一番おいしかったのって、彼の私に向けられたあの視線だったわ」
 ちょうど、そのお酒のように? 私は心の中でマリに問いかける。彼女は泣き笑いをしながら、グラスの中に閉じ込めた夏の思いを大切に大切に、すすっている。
山田詠美「Crystal Silence」    
『放課後の音符』より    

「Crystal Silence」のラストのシーンです。この作品を締めくくるのに、最高のシーンだと思いませんか?山田詠美はオチをきちんとつけるのが上手な作家で、特に短編小説にその手腕が発揮されるのだが、このラストも見事としか言えない。
読者であるぼくたちも、マリと一緒に疑似体験した夏の思い出をすすっているような気になるのだ。
もし、ぼくがジントニックが飲めたら、きっとこの作品を読みながらジントニックを飲み、余韻に浸ることであろう。    
【DATA】    
山田詠美「Crystal Silence」    
新潮文庫『放課後の音符』    
KEN'S NIGHT M5レフィル<海辺夏休暇>    KEN'S NIGHT LIMITD Track03 Crystal Silence