CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 217th 花火

 私は、うんざりしました。すっかり夏休みのリズムが出来上がっているのです。それなのに、あんな埃っぽい街に行くなんて。私は、自分では、本当の贅沢を知っているつもりでいました。普通の若い人たちのように、夜遊びや流行の洋服などには何の興味も持っていませんでした。
 朝、露で湿った草を踏みしめながら散歩したり、夕暮には、冷たい日本酒を飲んで、物思いにふけったり、時には京二郎さんと美味しいごはんを食べに行ったり。夏の幸せな習慣が、私には、もう出来上がっていたのです。
山田詠美「花火」
『晩年の子供』より

山田詠美は心と体の問題を永遠のテーマにして作品を書き続けているのではないか。とぼくは常々思っているのだが、この短編にもそんな心と体の関係に関する考察が随所にちりばめられていて、二度目の大学時代の卒論でもこの作品は参考作品として多用した記憶がある。
主人公が都内に住んでいる姉を訪ねるのだが、その姉との会話で、その心と体の問題が出て来る。
まだ恋人である京一郎さんと肉体関係を持っていなくて、そんな自分たちの関係こそが高尚な恋愛だと思っている妹に対する姉の言葉の数々を、これからもこのブログでしばしば取り上げて行きたいと思っている。
【DATA】
山田詠美「花火」
講談社文庫『晩年の子供』
KEN'S NIGHT M5レフィル<花火摩天楼>
KEN'S NIGHT 2nd Track 7 Stars Fell on Alabama ※ラメ入り