CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 94th「晩年の子供」

 私は、物憂い気分に浸りながら、季節の移り変わりを感じていた。死を意識してから、私のまわりにうごめくはっきりと形を持たないもの、たとえば、季節、たとえば時間、そういったものが、急速に姿を現し始めていた。色を持ち、意志を持ち、私に向かって歩き始めていた。
山田詠美「晩年の子供」『晩年の子供』より

山田詠美の『晩年の子供』は純文学系の短篇集だとぼくは思っている。
「ベッドタイムアイズ」や「フリーク・ショー」といった恋愛を主題とした作品群とは一線を画し、純文学に徹しているところが、山田詠美のすごいところなのではないだろうか。
この本の表題作にもなった「晩年の子供」は、飼い犬に手をかまれたことで、自分は狂犬病で死ぬのではないかという不安に駆られる少女を描いた作品である。
彼女は自分が半年後に死ぬかもしれないという恐怖の中で日々を過ごすのだが、その様子が山田詠美らしい筆致で描かれているところがこの作品の面白さなのではないだろうか。
山田詠美の別の一面が読み取れる傑作である。

【DATA】
山田詠美「晩年の子供」
講談社文庫『晩年の子供』
KEN'S NIGHT M5レフィル<桜舞摩天楼>
KEN'S NIGHT 1st Track 04 Night and Day