CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 195nd トラッシュ

 夏は暑かった。そう、いつも夏は暑い。それは大昔から決まっている事実なのだ。けれど、その事実には色々な種類がある。心を灼く恋の前ぶれを確信するようなもの。あるいは皮膚の呼吸を防げるもがき苦しむようなもの。それを感じた時などは、なにかを殺してしまいたくなる程だ。
山田詠美「トラッシュ」
『トラッシュ』より

小説家がすごいなと思うのは、その着眼点の鋭さだ。凡人には考えもつかないようなことを思いつくし、それを言語化する術を知っている。それこそが小説家だとぼくは思っている。
でも、小難しいことを言っているような小説家はぼくはあまり好まない。なんだかそれっぽく書いているけど、あまりにも解らなさ過ぎてこちらには伝わってこない文章というのは、読んでいて苦痛でしかない。
だが、詠美はその辺のバランスがとても良い。
どんな表現も解り易いし、すんなりと入って来る。
それなのに、「なるほど!」と思える表現が多いのだ。
上記の文章は「トラッシュ」に出て来るのだが、「夏の暑さ」について深く考察していて、そこから思考がどんどん広がっていく様が見て取れるので、今日から数日にわたって、その文章を追っていきたい。
【DATA】
山田詠美「トラッシュ」
文春文庫『トラッシュ』
KEN'S NIGHT M5レフィル<花火摩天楼>
KEN'S NIGHT 2nd Track2 Summertime