CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 193rd ルーシィ

 口紅はドレスを選ぶまで塗らない。サオリはクロゼットを開けて増え始めたドレスをながめる。この週末の儀式を知る前までは、どんな女たちが身に付けるのだろうか、と不思議にさえ思えた大胆な服たち。今、彼女は、自分がその服にぴたりと合う女になろうとしている。彼女が手に取ったのは紫色の胸元の大きく割れた、身体に張り付くドレスだった。
山田詠美「ルーシィ」
『フリーク・ショウ』より

山田詠美の小説は、いくつかのカテゴリーに分類することができる。例えば、「色彩の息子」「学問」といった純文学系の小説、「放課後の音符」「ぼくは勉強ができない」のような青春小説系、「アニマル・ロジック」「つみびと」といった社会問題系、などだ。そして、もう一つが「フリークショー」「ソウルミュージックラバーズオンリー」のような男女の出会いと別れをテーマにした恋愛小説系だ。
昼間はOLとして地味な仕事をしている主人公のサオリは、金曜日の夜になると派手なドレスを着て、赤坂のクラブに遊びに行く。そんな彼女の週末の儀式を描いたこのシーンをぼくが初めて読んだのは、ちょうど新宿二丁目での夜遊びを覚え始めたばかりのころ。
お酒は飲めないけど、この小説に登場する主人公たちのような気持ちで、二丁目に遊びに行っていたのだ。
だから、今でもこういう文章を読むと、その時のことをまざまざと思い出す。
【DATA】
山田詠美「ルーシィ」
幻冬舎文庫『フリーク・ショウ』
KEN'S NIGHT M5レフィル<彩酒摩天楼>
KEN'S NIGHT 2nd Bonus Track (They long to be) Close to You