CLUB AMY 365

山田詠美の文章をご紹介。詠美さんご本人の掲載許可済です。

Day 45th「ルーシィ」

 アパートメントのドアを開けるとき、サオリは部屋の中から流れ出てくる空気が朝とはまるで違ったものに変化しているように思う。彼女の本当の人生の準備が既に部屋の中でなされているようにすら感じる。彼女はひっ詰めていた髪をほどいて、首をふる。すると日常はその瞬間、蒸発する。ターンテーブルに針を落として、来ていた服を次々に脱ぎ捨てる。そして、大きな溜息をひとつつく。ああ、やっと。彼女はそう呟く。金曜日に、彼女はやっと自分を取り戻す。
山田詠美「ルーシィ」より

『フリーク・ショウ』も、山田詠美らしい初期の恋愛短編集だ。
ぼくの中では『放課後の音符』の大人バージョンが『フリーク・ショウ』だと思っている。
そしてこの作品も実は連作短編集だというところも『放課後の音符』と似ている。
『放課後の音符』は主人公(名前は明かされていなくて、「私」という一人称で物語は進められている)は同じなのだが、『フリーク・ショウ』は、一つの短編が終わるころに、次の短編集の主人公が登場するという形で物語が何となくつながっているのだ。
なので、トーンも似ていて、読んでいて、群像劇を見ているような気持になるところが面白い。
「ルーシィ」も、タイトルにある「フリーク」を思わせる話で、ぼくが詠美さんの小説を読むようになった時、この小説に出てくる主人公のような気持で二丁目に通っていた。

【DATA】
山田詠美「ルーシィ」
幻冬舎文庫『フリーク・ショウ』
KEN'S NIGHT M5レフィル<彩酒摩天楼>
KEN'S NIGHT 1st Bonus Track Thank You for the Music